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自己決定理論とは?部下の内発的動機づけを高める上司の関わり

コラム

2026.09.06

「部下が目標を達成するために、どう支援すればよいか」と考える前に、そもそもその目標は本人が納得して決めたものなのかを考えることが重要です。目標が会社や上司から一方的に与えられれば、それは「やらなければならないノルマ」になりかねません。キャリアコンサルティングやコーチングでも、本人が自ら決めた目標だからこそ、主体的な行動につながります。本記事では、自己決定理論をもとに、部下の内発的動機づけを高める目標設定と上司の関わり方を解説します。

1.自己決定理論とは?内発的動機づけとの関係

1-1.自己決定理論の基本的な考え方

自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)は、人がどのようなときに自ら進んで行動するのかを説明する動機づけの理論です。心理学者のエドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱され、人には「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的な心理的欲求があるとされています。人は、外から強制されるのではなく、自分の意思で選択し、成長を実感し、周囲とのつながりを感じられるとき、より主体的に行動しやすくなります

1-2.「自分で決めた目標」が行動を生み出す

目標達成において重要なのは、「どんな目標を持つか」だけではありません。「その目標を自分自身が決めたと思えているか」も大きな意味を持ちます。例えば、上司から「今期はこれを達成してください」と言われた目標と、自分自身が「これに挑戦したい」と考えて設定した目標では、取り組むときの主体性が異なります。自己決定理論の視点では、本人が目標を自分の意思で選択し、「自分の目標だ」と感じられることが、内発的な行動を支える重要な要素になります。

2.MBOの目標設定に自己決定理論を活かす

2-1.会社から与えられた目標が「ノルマ」になる理由

MBO(目標による管理)では、組織の目標と個人の目標を結びつけ、目標達成に向けて仕事を進めます。しかし、会社の目標をそのまま個人に割り当て、「今期はこの数字を達成してください」と伝えるだけでは、部下にとって目標が単なるノルマになってしまうことがあります。もちろん、組織として達成すべき目標はあります。ただし、「会社が求めているからやる」という状態では、主体性が生まれにくくなります。重要なのは、会社の目標を本人にとって意味のある目標へと変えていくことです。

2-2.会社の目標と本人の「やりたい」をつなげる

会社には「達成してほしいこと」があり、社員には「やってみたいこと」や「成長したいこと」があります。目標設定で重要なのは、この2つをつなげることです。例えば、会社として「新規顧客を増やしたい」という目標があったとしても、部下自身が「新しい提案力を身につけたい」と考えているのであれば、その思いを目標に反映できます。上司が答えを決めるのではなく、「この目標の中で、あなたは何に挑戦したい?」と問いかけることで、会社の目標が本人の成長やキャリアと結びつき、自分ごとになっていきます。

3.内発的動機づけを支える3つの基本欲求

3-1.自律性――「自分で決めた」と思えること

自己決定理論の中心となるのが「自律性」です。これは、誰かに強制されるのではなく、「自分の意思で選択して行動している」という感覚を指します。職場の目標設定では、上司が目標をすべて決めるのではなく、会社として期待する方向性を示したうえで、「その中で何を目指したいのか」を部下自身に考えてもらうことが重要です。目標のすべてを本人に委ねる必要はありません。一定の制約や組織の方針がある中でも、自分で選択できる余地をつくることが、自律性を育てます。

3-2.有能感――「自分ならできる」と感じられること

「有能感」とは、自分の能力を発揮できている、努力によって成長していると感じることです。目標が高すぎて「自分には無理だ」と感じれば、意欲は低下してしまいます。一方で、少し頑張れば達成できる目標に挑戦し、できることが増えていくと、「自分にもできる」という感覚が生まれます。上司は、結果だけを見るのではなく、目標達成までの努力や工夫、以前より成長した点にも目を向け、具体的なフィードバックを行うことが重要です。

3-3.関係性――「周囲とつながっている」と感じられること

「関係性」とは、周囲の人と信頼関係を築き、自分が受け入れられている、支えてもらえていると感じることです。どれだけ自律的に仕事を任されても、「困ったときに誰にも相談できない」という環境では、安心して挑戦することができません。上司が部下の話に耳を傾け、困ったときには相談できる関係を築くことで、部下は安心して新しいことに挑戦できます。「任せること」と「放っておくこと」は違います。必要なときに支援する姿勢が、部下の主体性を支えます。

4.キャリアコンサルティング・コーチングに見る「自己決定」

4-1.目標を決めるのは、あくまで本人

キャリアコンサルティングを行う中でも、私は「自己決定」をとても大切にしています。相談者の話を聴きながら、「本当はどうしたいのか」「何を大切にしたいのか」を一緒に整理していきます。しかし、最終的にどの方向を目指すのかを決めるのは、あくまで本人です。支援者が「あなたはこうしたほうがいい」と答えを決めてしまえば、たとえ正しい選択であっても、本人の意思による決定とは言えません。自分で考え、自分で選び、自分の人生として目標を決めることに大きな意味があります。

4-2.目標達成までの道のりを一緒に考え、支援する

コーチングも同様です。コーチは、相談者と一緒に目標を明確にし、ゴールまでの道のりを考え、行動を支援する役割を担います。しかし、「どこを目指すのか」までコーチが決めてしまっては、本人の主体性が失われてしまいます。大切なのは、本人が「ここを目指したい」と決めた後に、「では、そこに行くためには何が必要だろう?」と一緒に考えることです。この考え方は、職場における上司と部下の関係にもそのまま当てはまります。上司は答えを与える人ではなく、部下が自分で答えを見つけることを支援する存在になれるのです。

5.自己決定理論を活かした上司の関わり方

5-1.「目標を与える」から「目標を一緒につくる」へ

自己決定理論をMBOに活かすためには、目標設定における上司の役割を変える必要があります。「今期はこれをやってください」と目標を与えるのではなく、「会社としてはこういうことを期待している。その中で、あなたは何を目指したい?」と対話することが重要です。もちろん、すべての目標を部下の希望だけで決めることはできません。しかし、組織の期待と本人の興味・強み・成長したいことをすり合わせることはできます。目標設定を「指示の場」ではなく「対話の場」と捉えることが、部下の自律性を高める第一歩です。

5-2.「やらせる」マネジメントから「自ら動く」マネジメントへ

自己決定理論を意識したマネジメントでは、「どうすれば部下を動かせるか」という発想から、「どうすれば部下が自ら動きたいと思えるか」という発想への転換が求められます。その出発点となるのが目標設定です。会社の目標を一方的に与えるのではなく、本人の「やりたい」「挑戦したい」「成長したい」を引き出し、組織の目標と結びつける。そして、目標が決まった後は、上司が道筋を一方的に決めるのではなく、本人と一緒に考え、必要な支援を行う。この関わりが、「やらされる仕事」を「自ら取り組む仕事」へと変えていきます。

まとめ|社員が「自ら動く」組織をつくるために

自己決定理論が示す「自律性・有能感・関係性」の3つの基本欲求は、職場における社員の内発的動機づけを考えるうえで重要な視点です。特にMBOなどの目標管理では、会社から目標を与えるだけではなく、社員自身が「この目標に挑戦したい」と思えるようにすることが大切です。

そのためには、上司が一方的に目標や答えを与えるのではなく、社員の「やりたいこと」「強み」「成長したいこと」に耳を傾け、会社が期待することとつなげていく必要があります。そして、目標が決まった後は、本人が自ら考えて行動できるよう、必要な支援やフィードバックを行っていきます。

これは、キャリアコンサルティングやコーチングにも共通する考え方です。人は、自分で決めた目標だからこそ、そこに向かって主体的に行動することができます。

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